PROJECT REPORT 03
国内初となる工作機械で
航空宇宙業界やエネルギー業界の製造現場に欠かせない、オーエム製作所の工作機械。
これらの生産効率を向上させつつ、社会課題の解決にも貢献するために、
加工精度を飛躍的に高める「テーブルタンデム駆動」の搭載プロジェクトが繰り広げられた。
脱炭素や人手不足などの社会課題に応えるために、
製造業に不可欠なマシンをさらに進化させていく
今、ものづくりの現場はさまざまな課題に直面している。例えば、世界を挙げて取り組んでいる脱炭素への対応もその一つ。また、わが国の少子高齢化の進展に伴って、人手不足も深刻な問題となっており、生産工程の省人化・無人化へのニーズもいっそう高まっている。こうした状況を受けて、製造業のマザーマシンを手がけるオーエム製作所では、課題解決につながる新たな工作機械の開発に力を注いでいる。
脱炭素に向けてエネルギー消費の削減が叫ばれる中、機械自体の省エネはもはや限界を迎えつつある。求められているのは、生産効率を上げることで製品一個あたりに費やされるエネルギー量を減らし、また、省人化を図るために一台でさまざまな加工を集約できる工作機械だ。こうしたニーズに応え、ものづくりに変革をもたらすべく、オーエム製作所の開発部隊によってプロジェクトが立ち上がった。目指したのは、主力機種であるターニングセンタ(※1)の“VTLexシリーズ”をさらに進化させることだ。
VTLexシリーズは、航空機エンジンや発電設備、建設機械などの大型部品の加工で活躍する工作機械である。そのメインとなる機能は、多様な金属部品を水平方向に回転するテーブルに取り付けて切削する立旋盤。今回のプロジェクトでは、そのテーブルを任意の角度に回転させて位置決めする「割り出し」と呼ばれる性能をアップし、加工精度をさらに向上させる新技術の導入に挑んだ。
従来機では、テーブルの中心に回転角度を検出するセンサを取り付け、テーブルを動かすメインモータで割り出しを行う駆動方式が主に採用されていた。メインモータの回転動力を「速度変換箱」(歯車を組み合わせて回転速度を変換する装置)で制御してテーブルに伝達し、センサが取得した情報をもとに割り出しを行う仕組みだが、この方式はバックラッシュ(※2)に起因するガタツキが少なからず生じ、加工精度に影響を及ぼす問題を抱えていた。そこで、テーブル回転駆動にモータを2台使用する「テーブルタンデム駆動」の採用を決断。これによってバックラッシュ問題を解決し、加工精度を大きく改善させることで生産効率アップを図るべく、プロジェクトは本格的に動き出した。
(※1) 立旋盤をベースに、穴あけや溝削りなどの切削加工などの機能を複合的に備えた工作機械。
(※2) 歯車をスムーズに回転させるために、歯車と歯車が噛み合う部分に意図的に作られた隙間。一定方向に回転している時は、歯は接触し続けているので隙間は問題にならないが、一旦停止して逆に回転させる時、再び歯が接触するまでに時間が必要となり、このタイムラグが加工精度に影響を及ぼす。
- POINT
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目指したのは製品一個あたりのエネルギー消費を削減する工作機械
テーブルタンデム駆動の採用によって性能を劇的に向上させる
さまざまな難題を克服してプロジェクトを完遂、
この成果をもとに、さらなる精度向上と工程集約に挑む
「テーブルタンデム駆動」は、テーブルの前後それぞれに速度変換箱と回転用モータを配置し、2つのモータでテーブルを精密に回転させる技術だ。欧州の工作機械メーカーの大型機では採用実績があったものの、日本のメーカーでは前例がなく、実用化に向けてはいくつものハードルが待ち受けていた。
今回のプロジェクトでは、これまでタンデム駆動の搭載が難しいとされていた小型機もターゲットに据え、新たに開発した速度変換箱を、既存のVTLexシリーズに共通して設置することでスピーディーな製品化を目指した。VTLexシリーズは、テーブルのサイズ別に6機種が展開されているが、最も小さなテーブルサイズの機種では、新たな速度変換箱を設置するスペースがかなり限られる。共通部品化するためには、そこに対応できる小型の速度変換箱を開発しなければならず、空間に制約がある中で複雑な歯車の機構をいかにコンパクトに収めるか、技術者たちは知恵を絞った。
さらに、テーブル自体の質量や、そこに載せる加工材料の質量によってタンデム駆動の挙動が変わるため、それを考慮した上でソフトウェア側の制御を適正にすることが求められた。この問題に関しても、社内で試験と検証を重ねて最適解を追求していった。
▲タンデム駆動搭載機“VTLex1600M”
こうしてさまざまな技術的課題を乗り越え、テーブルタンデム駆動搭載のターニングセンタは遂に完成。タンデム駆動によってテーブル回転の追従性が向上し、従来機では対応できなかった高精度な溝加工なども可能になり、一台でさまざまな工程を集約できるようになった。さらに、テーブルの割り出し速度も3倍以上にアップし、2つの駆動モータで加工位置を確実に保持できるようなったことで、加工時間が従来比で25%減と大幅に短縮。この新型機は、2022年秋に国内で開催された工作機械の見本市で披露され、業界関係者から大きな注目を浴び、現在導入が相次いでいる。
このプロジェクトでの成果をもとに、オーエム製作所では現在、これまで自社機には搭載されていなかった機上での計測機能なども取り入れ、さらなる精度向上と工程集約を目指した工作機械の開発が進められている。その先に見据えているのは、完全自動化の世界だ。こうして、ものづくりを自らの技術によって革新し、製造業に新たな価値を提供し続けていくことで、これからの社会を豊かにすることに貢献しようとしている。
- POINT
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国内では前例のない、小型機へのテーブルタンデム駆動の搭載を実現
引き続き、無人化も視野に入れて一台で多様な機能を持つ新機種を開発中